マルチ・コンフォート・ハウス 倉敷
一般社団法人パッシブハウス・ジャパン主催の「エコハウス・アワード2017」で、「エコハウス・アワード最優秀賞」を受賞した作品「倉敷の家(マルチ・コンフォート・ハウス倉敷)」。
マルチ・コンフォート・ハウス倉敷は、住宅の断熱に関する意識がまだまだ高いとは言えない倉敷市で実現されました。 たとえ、断熱性能が高い住宅であっても、建築費用が高くては一般の方々には普及しない為、今回の特に目指したのは「コストバランスの良いパッシブハウス」。
今後の普及モデルのベースになると思われます。
プロジェクトの設計上のポイントは、下記の通り。
- 外皮性能に関わる部材である断熱材、窓、換気システムなどは、どこでも手に入る国産製を採用
- 断熱材は、コストパフォーマンスが良く、性能の持続性が高い高性能グラスウールを主に採用
- 窓には、国産の高性能トリプルガラス樹脂窓を採用
- 付加断熱施工時の窓周りの収まりを断熱材でサッシ枠を隠し、熱橋の防止とデザイン性を両立
- 30坪とコンパクトな建物にもかかわらず、内外が一体に感じられる作りで開放感を演出
- 暖房負荷は、ドイツ・パッシブハウス基準(15kWh/m2)をクリアー
- 冷暖房は床下エアコンを採用し、室内の温度ムラができないように設計
建物の高性能化を図った結果、寝具や部屋着、冷暖房設備など、不要なストックがなくなる効果もありました。ミニマムな暮らしは居住空間を広く、生活も豊かにし、不必要な物が見えず収まりの良い、美しい空間を作り上げています。
仕様構成図・各仕様データ
建物データ
所在地 | 岡山県倉敷市 |
工法・規模 | 木造軸組2階建て |
延床面積 | 100.62m2 |
竣工 | 2016年10月 |
設計・施工 | 倉敷木材(株) |
性能データ
1次エネルギー消費量(年間) | 63.87kWh/m2 (自家発電考慮:-120.92kWh/m2) |
暖房負荷(年間) | 8.03kWh/m2 (最低室温20℃) |
冷房負荷(年間) | 21.73kWh/m2 (最高室温27℃) |
熱損失係数(Q値) | 0.89W/m2・K |
外皮平均熱貫流率(Ua値) | 0.163W/m2・K |
相当隙間面積(C値) | 0.062cm2/m2 |
断熱仕様
屋根 |
高性能グラスウール28K 360mm |
外壁 |
外部付加断熱:高性能グラスウール24K 240mm 充填断熱:高性能グラスウール 28K 120mm 内部付加断熱:フェノールフォーム 20mm |
基礎 |
基礎下:押出法ポリエチレンフォーム保温板A種3種 150mm |
窓 |
高性能トリプルガラス樹脂窓 |
玄関ドア |
木製断熱ドア |
暖房 |
エアコン2.2kW |
冷房 |
エアコン2.2kW |
給湯 |
バイオマスボイラー |
換気 |
第1種熱交換型換気 |
再生可能エネルギー |
太陽光発電 5.12kW |
設計・施工者より
倉敷木材株式会社 住宅事業部 福本 邦重 氏
一番のポイントは、コストバランスの良いパッシブハウスを目指した点です。コストパフォーマンスの良いグラスウールをはじめ、国産標準仕様の樹脂サッシや換気システムなどどこでも手に入る素材で部材を構成しているのが特徴で、普及型パッシブハウスのベースとなるのではないかと考えています。
一方、外装は地域材、内装は全て漆喰、無垢の床、紙、タイル等自然素材で出来ておりコストを下げただけの建物とは一線を画しています。単なる高性能というだけでなく、意匠・素材にもこだわったつくりとなっており、温熱的な快適性、意匠的な快適性、そして光熱費の負担が少なく経済的な快適性がバランスよく実現できていると思います。まさに、マルチ・コンフォート・ハウス(ざまざまな点で快適性を追求した家)に仕上がっているのではないか思います。
シンプルで収まりの良い美しい空間には、不要なストックはありません。ミニマムな暮らしは居住空間を広くし生活も豊かにしてくれます。豊かで快適な家づくりを誰もが建てられることが大切だと思います。
設計・施工: 倉敷木材株式会社
お施主様の声
実際の住み心地や感じたことなど、お施主様の声をご紹介します。
◆真冬でも裸足で、しかも快適
これまではアパートに住んでいて、冬になると、室内なのに靴下を3枚履き、洋服も厚着をして暖房している部屋にかたまって生活するのが当たり前でしたが、今年の冬は裸足で過ごすことがほとんどで、非常に驚きました。
◆家の中を広く使え、活動的に
以前は家の中が寒かったので暖房している部屋にいることがほとんどでしたが、今は家全体が暖かくなったので家中を何のストレスなく動き回れるようになり、家の中でも非常に活動的になりました。
◆時間も有効に使え、充実した日々に
家が寒かったときは、何をするにしても腰が重く、寒いから動きたくないな...もう少し温まってから...など1つ1つ行動するのに時間がかかり、結果的に1日できることが限られて何となく達成感がない日々でした。今の家では、寒いな~というストレスがないために、すぐに行動できるため、1日の限られた時間にたくさんのことができるようになり、1日の充実感が全然違ってきました。
◆友達がたくさん来るように
今までは、家が寒かったので友達の子供に風邪をひかせてはいけないという気持ちもあり、自分たちが子供を連れて友達の家に遊びにいくことが多かったですね。今は反対に、友達が子供を連れて遊びに来ることが多くなりました。
お母さん友達も、暖かく快適なのを何となく感じていてくれているのだと思います。遊びに来た子供たちは、家の中で活発に動き回り、しまいにはシャツと短パンになっています。遊び終わって帰る際に、玄関ドアを開けて初めて、外ってこんなに寒かったんだと気づいてしまいます。
◆暖房費は年間8,000円程度
以前はエアコン、電気カーペットなどあらゆる暖房機器をつけていても寒かったです。
冬場の電気代は、照明なども全て含めて合計で月に20,000円程度でしたが、今は月に5,000円程度で済んでいます。暖房はエアコン1台で、12月~3月までは23℃設定にしていますが、実際に稼動している時間は非常に少ないです。
それでも家の中全体が常に20℃以上が保たれ、暖房費だけで見ると月平均2,000円程度ですので、冬場の暖房費は4ヶ月合計で8,000円程度でしょうか。エネルギーを使わなくても快適に過ごせていることに、本当に驚いています。
◆実家に帰るのがおっくうに…
今年のお正月も実家に帰ったのですが、あまりにも寒さに子供が風邪をひかないか心配だったので、予定を早めて自宅に帰ってきてしまいました。自宅に戻り玄関ドアを開けて家に入ると、ほんわりとした暖かさに、ホッとしました。
◆夏がどのようになるのか楽しみ
断熱性能が非常に高い家でひと冬を過ごしてみて、冬の快適さにはとっても満足しています。今度は、夏の住まい心地がどのようになるのか今から楽しみにしています。以前のアパートでは窓を閉め切って、エアコンフル稼働でしたので...。